感性工学手法による橋梁の景観設計に関する研究

          
研究代表者 鳥取大学工学部   白木 渡
鳥取大学工学部     松保重之
創和測量設計    米村廣之
泣Vー・エー・イー  伊藤則夫
鳥取県青谷町役場  長谷川幸彦
(社)中国建設弘済会  今田賢三
泣Vー・エー・イー  安宅和美
鳥取大学大学院     長瀬裕俊

 

1.まえがき

 

 橋は、その形態に関して古くから人々が関心を寄せ、意識的にその美を追求してきた代表的な土木構造物である。しかしながら、これまでの橋梁設計においては、主として安全性、耐久性、機能性、経済性が追求され、審美性(景観)や環境との調和性についての考慮が十分なされてきたとは言えない。経済的な発展とともに人々の生活に余裕が生まれ、美を楽しむ心のゆとりを持てるようになってきている中で、今こそ人々の感性に合った、周辺の環境に調和した美しい橋の設計が求められている。

 人々の感性に合った美しい橋を設計するといっても、安全性や耐久性に関する設計とは異なり、基準化された設計手法があるわけではない。人々が橋梁に対して持つ感性(審美性や調和性)は人の主観的な判断によるとこが大きく、通常、「あまり美しくない」、「うまく空間に溶け込んでいる」等の感覚的で曖昧な表現で示されるため、これらを定量的に評価することは決して容易ではない。しかし、人間が持つ感性やイメージを具体的に物として実現するための工学的手法として注目を集めている感性工学手法1)を用いれば、上述した感性工学的表現の定量化が可能となり、人々が橋梁に求めている感性に合った、親しみの持てる美しい橋を設計することができる。

 研究代表者である白木は5〜6年前から橋梁の景観設計に関する研究に取り組んできている。これまでの研究では、橋梁の美的評価のような曖昧性を含む問題に対して有効なニューラルネットワークを用いて、アーチ橋を対象とした景観評価システムの構築を行ってきた3)-6)。しかし、そこでは人々の橋梁に対する感性として「美しさ」のみを取り上げ、「美しい」、「普通」、「美しくない」の3段階でアンケートを行って評価している。そして、その評価結果を出力項目とし、入力項目としては、橋梁美を構成する4つの要素、すなわち「形式美」、「サイコベクトル」、「環境との調和」、「環境との色調和」を考え、橋梁の景観美を評価するニューラルネットワークシステムを構築している。

 人々が橋梁に求める感性は、「美しさ」だけでなく、「やすらぎ感」、「親しみやすさ」、「芸術性」、「安定感」、「統一感」等、さまざまである。本研究では、人々が橋梁に求める多種多様な感性を感性工学の手法により分析し、さらに従来行ってきたニューラルネットワーク手法も取り入れて、橋梁のデザイン要素と人々の感性との関係を合理的に結びつける方法を開発する。本研究では対象とする橋梁として、幅広い年齢層に人気の高い斜張橋を考える。

 

2.感性工学の特徴

 

 感性工学は、1970年ごろから広島大学の長町教授により始められた新しい研究分野である1)。感性工学を一言で表現するならば、「人間の感性やイメージを物理的なデザイン要素に翻訳して、感性にあった商品を設計するテクノロジー」である。もう少し詳しく述べると、消費者は“○○のようなモノが欲しい”といって、曖昧ではあるが要望するモノのイメージを持つ。設計者も“△△のような感性に訴える商品作り”をしたいと願う。この場合の“○○のようなモノ”というのが感性であり、それに近いモノを実現するために“○○のようなモノ”がカラーでは何色か、スタイリングではどんな形態か、機能では何をどう取り込めばよいのか、等を分析し解釈をし、最終的に設計スペックのレベルないし技術レベルへ変換する工学を感性工学という。

 わかりやすく例を出して説明すると、「広々とした洋間」という感性を実現するために、「広々とした」とは何かを分析して、その結果から洋間の床面積、天井の高さ、窓の総面積などのほか、この感性に関係する天井の色、壁の色、床の色、カーテンの色等を求める。得られたデータに基づいてデザインすれば、「広々とした」感じを与える洋間が実現できる。

 図2-1の上段に描かれている矢印の方向が、上述した定義の感性工学である。つまり消費者の感性を分析し、それに100%近い形で設計スペックを考えて実現するための感性の翻訳プロセスであり、これを「前向性感性工学」2)という。もう一つの感性工学技術が考えられる。それは、デザイナーや製品開発マンが売れる商品としての感性コンセプトを持ち、自己の解釈に基づいて設計スペックを考えそれの統合化を行う。その結果について、消費者の感性にどれだけ近づいているかとか、感性データベースに照合した時に、開発マンの手続きによる製品がどれほど一般的感性に近いかを診断することが必要になる。この方向の感性工学を「逆向性感性工学」2)という。感性工学を応用した例の主なものを参考文献として5)15)に挙げておく。

 

3.感性工学手法による橋梁景観美の評価

 

 本章では、感性(イメージ)をデザイン要素に翻訳するために、橋梁に対するイメージを具体化し、橋梁景観美を定量化することを目的とする。

 

3.1 イメージ形容詞の選択

 

 感性工学とは人が持っている感性(イメージ)を物理的なデザイン要素に翻訳し、それを設計し実現する技術である。感性と具体的なデザイン要素とを結びつけるシステムを構築するためには、感性を表現する言葉が必要になってくる。例えば感性を表現する例として、「可愛い−可愛くない」とか「上品な−下品な」、「シンプルな−複雑な」などの形容詞で表される。その形容詞がイメージ形容詞である。

 感性を具体的なデザイン要素に翻訳するシステムを構築するためには、まず、感性を表現する言葉の収集をしなければならない。今、感性の対象は橋梁であるから橋梁についての感性を表現するイメージ形容詞を集める必要がある。方法は、建設コンサルタントなど、橋梁の設計・施工に携わっている人々が話し合う際に使う言葉を集める方法と 信頼のおける橋梁雑誌数冊を用意し、すべてのページをめくりながら橋梁に関するイメージ形容詞を抜き書きする方法がある。本研究では便宜上、後者を採用し、約200個のイメージ形容詞を抽出した。これを対になるようにまとめたり、意味が重複する形容詞を整理するなどして、最終的に表3−1に示す30個の形容詞にまとめた。

 

3.2 アンケートの作成および実施

 

 ここでは、上で示した30個のイメージ形容詞を用いてアンケートを作成し実施する手順を説明する。

 アンケートを作成するにあたって、本研究では、SD尺度(意味微分法)を用いる。SD尺度というのは、1958年に心理学者のオスグットが証明した評価尺度のことをで、表3−1に示すイメージ形容詞を、「都会的な−田舎的な」、「機能的−機能的でない」等の対語を両極として、その間を5段階なり7段階に分けて評価する方法である。心理学の研究では、評価段階の多少は結果にほとんど関係ないことが証明されている。よって、本研究では、アンケートの被験者に判断し易く、かつ疲労の少ない5段階を採用した。 次に、評価対象のスライドづくりである。人に評価させる際に、評価対象の実物を見せながら評価させることが最も望ましい。しかし、橋梁のように様々な場所にある構造物を1つ1つ被験者に見せるのは物理的に不可能である。そのような対象に対しては、スライドを用いるという便法がある。感性を取り上げているのに実物の橋梁とスライドの橋梁とでは違いが生じるのではないかという懸念があるが、実物とスライドとは良く似た感性を与えることが証明されているため1)、我々の研究ではスライドを用いて調査を行った。

 

 次に評価対象である斜張橋の選択であるが、被験者に判断しやすいものを選ぶため、数冊の橋梁雑誌から70枚の橋梁の写真を選び、これらをケーブルの見やすさなどを考慮した第1処理を経て50枚に絞り込み、さらにその中から周りの風景のバリエーション等良く吟味し、最終的に30枚にまとめた。それら30枚の写真から、アンケートに用いるスライドを作成した16)

 以上これらの30枚のスライドを用いてSD尺度でアンケートを行った。被験者は鳥取大学の学生50名(男子38名女子12名)である。アンケートは、スライド数が比較的多かったため途中に10分間の休憩を挟んで1枚につき約90秒かけ、全体で60分を目安に行い、いい加減な評価をさせないように配慮して行った。また、アンケート終了後の得点の評価の仕方であるが、それぞれの形容詞を全員が5と判断した写真が100点となるように次式を用いて、評価した。

                       (3.1)
ここに、N1:5と評価した人数;	N2:4と評価した人数;
	N3:3と評価した人数;	N4:2と評価した人数;
	N5:1と評価した人数;
	(N1+N2+N3+N4+N5):アンケートの被験者数
である。

 

3. 3 主成分分析によるイメージ形容詞の意味空間の把握

 

 ここでは、被験者が斜張橋に対して示した感性(イメージ形容詞)の意味空間を把握するために、3.2で述べたアンケートの評価結果を主成分分析し、累積寄与率60%以上で、固有値が1.0以上となる5つの主成分を選択した。そしてその結果を各主成分ごとに主成分得点の高い順に上位6項目の形容詞を選んだ。表3−2にそれらの形容詞と主成分得点を示す。ただし、各主成分で形容詞が重ならないように配慮した。この表の結果より各主成分因子を次のように命名した。

 第1主成分:個性美を表す因子

 第2主成分:好感度を表す因子

 第3主成分:調和美を表す因子

 第4主成分:優美さを表す因子

 第5主成分:存在感を表す因子

 これより被験者50名が斜張橋に抱く感性(イメージ形容詞)は上述の5つの因子構造で構成されていることがわかった。イメージ形容詞を主成分分析して因子構造を明確にするねらいは、対象とする斜張橋の感性の世界の構造を明らかにすることにある。例えば、表3−2からわかるように、「引きつけられる」と「象徴的な」は同じ因子軸上にあるので、デザイン要素上でニュアンスの違いはあっても大半のデザイン要素はほぼ同じと考えてもよい。しかし、「引きつけられる」と「落ち着いた」とは因子構造が異なっているので、当然異なるデザイン要素となる。このような感性の違いを考慮した設計を行うことが感性工学手法による景観設計ということになる。

 

4.感性工学手法による斜張橋の景観評価システムの構築

 

 本章では、まず3章で明確化した感性(イメージ形容詞)の5つの因子と斜張橋のデザイン要素との関係をニューラルネットワークを用いて結びつける方法について示す。そして、その方法により斜張橋の景観評価を行うシステムを構築する。

 

4.1 ニューラルネットワークによるデザイン要素と感性因子との結合

 本研究では、斜張橋の景観に影響を及ぼすと考えられる要素として、「形式美」、「サイコベクトル」、「環境との調和」、「環境色との色調和」の4つを取り上げ17)表4−1に示す33項目のデザイン要素を考える。これがニューラルネットワークの入力項目になる。以下、表4−1の各項目について簡単に説明する。

・1)〜9)

 橋桁、塔、ケーブル等の橋梁のデザイン要素のサイコベクトルは、スケッチする際に通常最初に描かれる線を示すベクトルであると考えられている。しかし、データとして取り扱うためには抽象的であるので、以下の手順でサイコベクトル化を行う。まず、塔、ケーブル等の線をサイコベクトルで表し、斜張橋桁部の水平距離を1としてそれぞれのベクトルの長さを求め、その大きさが0.1以上のものを人の視覚に誘引力を与えるサイコベクトルとみなし、その他のものは解析の対象にしないことにした。

・10)〜15)

 風景が表すサイコベクトルについて、1)〜9)の場合と同様に解析をする。

・16)〜20)

 構図全体の面積を1とし、それぞれの面積の割合を求める。

・21)

 橋桁の長さを1として塔の長さを表す。

・22)〜23)

 風景1は山岳・平野部等陸地の風景があれば1、なければ0を 入力し、風景2は河川・海等水辺に関する風景があれば1、なければ0を入力する

・24)

 塔の形式(図4−1参照)には、A形、独立2柱形、単柱形、H形及び門形があり、A形に該当する場合、その項目を3として入力し、同様に、独立2柱形は2として、単柱形は1として、H形及び門形は0として入力する。

・25)

 ケーブルの形式(図4−2参照)も塔の形式の場合と同様にRADIAL形を2、HARP形を1、MULTIPLE形を0として入力する。

・26)

 ケーブルの本数を10以下を少ない、11から24を中ぐらい、25以上を多いと考え、それぞれを0、1、2、として入力する。

・27)

 ケーブル1面の場合は1、2面の場合は2と入力する。

・28)

 27)と同様に1本の場合は1、2本の場合は2と入力する。

・29)

 これは、景観をみだす障害物があるか否かで判断し、自然の障害物がある場合は2、人工的な障害物がある場 合は1、障害物が無い場合は0と入力する。

・30)

 アングルは橋梁をみる位置を意味し、ここでは2次元で考え、X軸側のアングルを左側、中央、右側で表し、Y軸側のアングルを上、中、下で表す。わかりやすくすると表4−2のようになる。 例えば、右下から橋梁をみあげるアングルだとすると、9を入力することになる。

・31)

 材質は、コンクリートを1とし、スチールを0とする。

・32)〜33)

 橋梁色(塔の色)と環境色との色相および明彩度の色調和関係において、同等、類似、対比、不調和の順に、 0、1、2、3として入力する。なお、写真上から橋梁色と環境色をどのように求めたかは以下に説明する。

 まず、アンケートに用いた橋梁の写真を全てビデオカメラに撮り、同じ条件下で画像処理装置に取り込む。環境色を求める場合、橋梁部のRGB表色系での色の3刺激R,G,B,それぞれの平均値を求め、その3刺激値より得られる色を橋梁色とする。求める際に、橋梁部分に影等が含まれているので、なるべくR,G,B値の標準偏差が小さくなるように不純物をとり除く。また、RGB表色系の3刺激R,G,Bというのは、マンセル表色系でいうH,V,Cに相当するようなもので、ここでは詳しく説明しない。しかし、このR、G、B表色系の色をマンセル表色系に変換しなければ、色調和原則を用いることが出来ないので、まず式(4・1)〜(4・5)よりR,G,B値をXYZ表色系の3刺激値X,Y,Zに変換し、色度値x,yを求める。

	X=(0.6067R+0.1736G+0.2001B)×100/255  	(4・1)
	Y=(0.2988R+0.5868G+0.1144B)×100/255 	(4・2)
	Z=( 0.0661G+1.1150B)×100/255 		(4・3)
	x=X/(X+Y+Z)   				(4・4)
	y=Y/(X+Y+Z) 				(4・5)

なお、x、y値は色相及び彩度を、Y値は明度を表すものである。

さらに、色度値x,yをY値に相当するマンセル表色系の等色相線および等彩度線を示した明度の図にプロットして、マンセル表色で表す12)17)。ただし、Y値が2枚の図の中間にくるときは、近い値の2枚の図から内挿法で求めた。こうして得られたマンセル表色の色相、明度、彩度を橋梁色とする。環境色も同様にして求めるわけだが、橋梁をとりまく風景は、山、空、川など数多くの色彩を持つ。しかし、橋梁との色調和を考えるのであるから、その無数にある風景の色を幾つかの色に置き換えなければ解析は困難である。そこで、写真上において、橋梁に隣接する山、空などが表す色の中でもっとも彩色面積の大きい色をその風景の代表値として扱うものとする。これは、彩色面積が大きくなるにつれ、色の明度、彩度が高まり、当然人間の視覚にもより刺激を与えると考えられるからである。

 ここで、問題になるのは、例えば山、空、川、等のそれぞれが表す色がほぼ同じ頻度で存在するような場合である。おそらく、最適な方法は、山、空、川などの代表色を求め、それぞれについて橋梁色との色調和を考慮することであろう。しかし、3色以上の組み合わせになると、今回用いる写真の数ではシステムのパターン認識は難しくなる。このような場合は、「明度において、同じ彩色面積でも色相においては寒色よりも暖色のほうが高い明度の方がより大きくみえる。」という色の心理効果を考慮することで解決する。

 以上がニューラルネットワークによる景観評価システムの入力項目の説明である。次に、出力項目について説明する。出力項目としては、3章で評価した斜張橋に対する50人の被験者の5つの感性因子、すなわち個性美(第1主成分)、好感度(第2主成分)、調和美(第3主成分)、優美さ(第4主成分)、存在感(第5主成分)のそれぞれをA、B、Cの3ランクに分けたものを用いる。ランク分けの仕方であるが、表3−2に示す各因子に属する6つの形容詞に対してアンケートに用いた斜張橋が得た得点の平均値を用いた。A、B,Cランクの付け方は、各ランクに入る写真がほぼ3等分になるように行った。

 以上示した、入力項目、出力項目を結びつける方法として、ここではニューラルネットワークを用いた。5つの感性因子に対してそれぞれ5つの評価システムを構築した。ニューラルネットワークは階層型で誤差逆伝播法により学習させた。5つのシステムとも入力層の細胞数は33、中間層は1層でそれぞれ細胞数は5、出力層の細胞数は3である。また、学習回数1000〜2000回、絶対最大誤差0.1で、アンケートに用いた30枚の写真の内6枚を検証用に残した24枚についてすべてのシステムの学習が良好に行われた。

 

4.2 システムの検証および感度解析

 まず、4.1節で構築したシステムが学習データ以外の斜張橋の写真に対して正しく感性評価ができるかどうかを検証する。検証用に取っておいた未学習の写真6枚(写真番号3,6,7、16、19、29)に対して、4.1節で構築したシステムにより第1から第5の各感性因子に対して検証させた。紙面の都合上、第1主成分の個性美および第2主成分の好感度についてのみ表4−3および表4-4に検証結果を示す。

 表4−3から明らかなように、システムによる検証結果とアンケート結果(正解)が一致したものは、6枚中2枚である。一致しなかった4枚の内2枚は、CをBと判定したものであり、残り2枚についてもBをA、あるいはAをBと判定している。また、表4-4の結果からわかるように、システムによる検証結果とアンケートの結果(正解)が一致したものは、6枚中3枚である。一致しなかった3枚の内2枚はBをAあるいはCをBと判定したものであり、残り1枚だけがAをCと判定している。この写真(番号17)を除けば、これらの結果よりこのシステムである程度「個性美」ならびに「好感度」の評価が可能であると判断できる。第3〜第5主成分の感性因子の検証結果についても、第1および第2主成分のものと概ね感性因子の評価が可能と判断できる結果を得た。

 次に、表4ー1に示す33個の入力項目(デザイン要素)が出力項目(感性因子のランク)にどのような影響を及ぼすのかを調べるために、構築したネットワークシステムを用いて感度解析17)を行った。第1主成分の「個性美」に関する解析結果について示すと、次のようである。すなわち33個の入力項目のうち7)〜9)ケーブルのサイコベクトル(長さ、鉛直、水平)、11)全ての山のサイコベクトル(鉛直)、14)〜15)全ての水のサイコベクトル(鉛直、水平)、16)〜19)空、水、橋、緑が構図内に占める面積比、22)風景1、 26)ケーブルの本数、30)アングル、 33)明度彩度の色調和関係の16項目については感度が認められたが、それ以外の項目についてはあまり感度が認められなかった。この16項目のうち7)と24)の2項目について感度特性をグラフ化したものを、それぞれ図4−3図4−4に示す。解析に際しては、対象とする項目の入力値以外は、いずれの場合もランクAの写真に対する平均値を用いている。

 まず、図4−3からわかるように、項目7)のケーブルのサイコベクトルの長さが大きくなると、ランクAの評価が下がり、ランクCの評価が上がってきている。これはケーブルが長く、強調されると、塔が相対的に目立たなくなり、「個性美」の評価が下がることを表している。また、図4−4からわかるように、項目24)の塔の形式が図4ー1に示すA型、独立2柱形から単柱形、H形及び門型になるほどランクAの評価が下がり、それに伴ってランクBの評価が上がっている。これは、今回アンケートに用いた斜張橋についてはI型や門型の塔が「個性美」の評価が低いことを意味している。

 また、上述した16項目以外の残り17項目については、感度が全く見られなかったが、これらの項目は平均的に「個性美」という感性に影響しているということであって、必要ないという意味ではないことに注意する必要がある。

 このような感度解析の手法を用いれば各感性が斜張橋のどのようなデザイン要素の影響を受けやすいかがわかり、人々の感性に合った斜張橋の景観設計が可能となる。

 

4.3 システムの景観設計への適用

 

 今回構築した景観評価システムは、検証結果および感度解析の結果より十分とはいえないまでも概ね納得のいく結果が得られたと言える。さらに、感性因子のランク付け、入力項目(デザイン要素)の選定の見直しなど、改善を重ねて行けば斜張橋の景観評価に十分用いることができると考えられる。この節では本研究で構築した景観評価システムを発展させて、さらに景観設計システムを構築するためのプロセスの提案を行うことにする。

 まず、本研究で構築した景観評価システムを用いた感度解析結果より、得られたデザイン要素と感性因子(イメージ形容詞)との関係が明確になった時点で(つまりイメージに対するデザイン要素が明確になった時点で)その結果に合うような橋梁のサンプルを作る。そして、そのサンプルを用いて前に行ったアンケートと同じ条件で再びアンケートを取り、それについてのシステムを再び構築する。これを繰り返すことにより、システムが完全なものへと近づいて行き、より良いシステムになるにつれて感性(イメージ)に対するデザイン要素が明確化してくる。その結果をもとにして景観設計システムを構築する。つまり、最終的にはシンプルな橋と入力するとそのデザイン要素がでてくるような設計システムを構築することを目的としているのである。

 本研究では、景観設計システムを構築するまでは至らなかったが、橋梁の景観設計に感性工学の手法を適用することを試み、ニューラルネットワークによりイメージ形容詞(感性)とデザイン要素とを結び付けるシステムを開発したことは、今後の景観設計の研究の方向性を示した点において評価できると考えられる。

 

5.あとがき

 

 本研究では、斜張橋の景観評価・設計を行うために感性工学の手法を適用することを試みた。その結果、人々が斜張橋に対して持っている感性が5つの因子すなわち「個性美」、「好感度」、「調和美」、「優美さ」、「存在感」に分類されることがわかった。また、各因子を構成するイメージ形容詞を明確化できた。 さらに、ニューラルネットワークを用いて、これら5つの感性因子と斜張橋のデザイン要素とを結合させて、景観評価が可能なシステムを構築した。しかし、構築したシステムは、検証結果及び感度解析の結果から考えて、まだ現時点では十分満足のいくものではない。その原因としては、感性因子のランク付け、入力項目の吟味の不足によるデザイン要素の欠落等があげられる。まず、ランク付けの改善案として、今回は、A、B、Cのランクに入れる写真の数が3等分になるようにランク付けを行ったが、3等分にこだわらずアンケート結果を重視した重み付けしたランクの評価の仕方を考える等種々検討するべきであると考えている。また、入力項目の吟味不足を補う提案としては、アンケートの被験者の意見を取り入れることが考えられる。今回のアンケートの感想を被験者に聴いてみたところ、最も多かったのは、「どれも同じような橋に見える。」であった。このことから、アンケートの被験者は、今回のアンケートの評価を橋梁のみを見て判断したのではなく、橋梁と写真の中の要素の何かを感じとって判断したことがわかる。この何かを入力項目に入れることができれば被験者の感性をうまく評価できる。この何かの一例として「ケーブルの見やすさ」などの項目を加えることが考えられる。今後のアンケートには、アンケートの最後に感想の欄を加え、それからこの何かを読みとると良いと思われる。これらの検討は、今後の研究に譲るものとする。

 最後に、本研究を遂行するにあたり、有益な御助言をいただいた鳥取大学工学部上田茂教授、橋梁写真の画像処理等に御協力いただいた同小田明道技官ならびアンケートの実施・解析等に御協力いただいた同学部学生田渕裕恵さん(現 日建技術コンサルタント梶jに厚くお礼申し上げます。また、本研究は土木学会中国四国支部平成6年度研究活動助成金(B)、同平成6年度「ちゅうごく土木みらい委員会」調査研究費ならびに河川環境管理財団平成6年度河川整備基金助成金の援助を受けて実施したものである。関係各位に厚くお礼申し上げる次第である。

 

参考文献

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4) 白木渡他:色彩を考慮したアーチ橋の景観設計へのニューラルネットワークの適用、構造工学論文集、Vol.39A,pp.595-606,1993.3.

5) 白木渡他:ニューラルネットワークによる色調和を考慮した橋梁景観評価システム、土木学会第48回年次学術講  演会概要集、第1部、I-555,pp.1258-1259,1993.9.

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